なぜ高齢者の家はゴミ屋敷になりやすいのか
テレビや新聞で報じられるゴミ屋敷のニュースで、住人が高齢者であるケースが非常に多いことに気づく方は少なくないでしょう。長年きちんと生活してきたはずの人が、なぜ人生の終盤にゴミの山に埋もれてしまうのか。その背景には単なる「だらしなさ」では片付けられない、高齢者特有の身体的、精神的、そして社会的な要因が複雑に絡み合っています。高齢者の家がゴミ屋敷化する最も大きな原因の一つが身体機能の低下です。年を重ねるごとに足腰は弱り、重いゴミ袋を持って集積所まで歩くこと自体が困難な重労働となります。また視力の低下によって部屋の隅の汚れや散らかりに気づきにくくなることもあります。次に深刻なのが認知機能の低下、特に認知症の影響です。認知症が進行すると何がゴミで何が必要な物かの判断がつかなくなります。ゴミの分別ルールや収集日を忘れたり、今日が何曜日か分からなくなったりしてゴミ出しそのものができなくなってしまうのです。さらに見過ごせないのが精神的な要因です。長年連れ添った配偶者との死別や親しい友人との別れ、そして退職による社会的な役割の喪失。こうした深い孤独感や喪失感は高齢者の生きる気力そのものを奪い去ります。何もする気が起きず自分の身の回りのことすらどうでもよくなってしまう「セルフネグレクト(自己放任)」の状態に陥るのです。これらの個人的な要因に加え、核家族化や地域社会との繋がりの希薄化といった社会的な孤立が問題をさらに深刻化させます。誰にも助けを求めることができず、誰からも異変に気づかれないまま静かにゴミの中に埋もれていく。高齢者のゴミ屋敷は、その人個人の問題ではなく私たちの社会が抱える構造的な課題を映し出す悲しい鏡なのです。