「あの日のことは、一生忘れられません」。市役所の環境対策課で長年ゴミ屋敷問題を担当してきたある職員は、初めて立ち会った行政代執行の様子を静かに振り返ります。数年に及ぶ指導、何度も繰り返した家庭訪問、そして住人の頑なな拒絶。行政として考えうるすべての手段を尽くした末の、苦渋の決断でした。執行の当日の朝、現地には警察官や消防隊員、そして数十人の作業員が集まり、静かな緊張感が漂っていました。近隣住民も窓越しにその様子を固唾を飲んで見守っていました。代執行が開始されると、まず防護服に身を包んだ職員が住人に対し、最後通告を行い、強制撤去の開始を宣言しました。室内から溢れ出したゴミの山は、長年の雨風で固まり、もはや地層のようになっていました。一歩踏み込むたびに崩れる不用品の山、そこから逃げ出す大量の害虫、そして喉を焼くような異臭。作業が進むにつれ、ゴミの下から家の柱や床が姿を現しましたが、そこは既にシロアリに食われ、腐敗しきっていました。「私たちがやっていることは正しいのか」という自問自答が、作業中の職員の脳裏を何度もよぎります。しかし、その時、隣家の住民が涙を流しながら「ありがとうございます」と手を合わせている姿を見て、ようやく自らの職責の重さを実感したと言います。作業は丸三日間続き、運び出されたゴミの量はトラック数十台分、総重量は数十トンにも及びました。空っぽになった家の中で、住人の男性は呆然と立ち尽くしていました。その背中は、あまりにも小さく、無力でした。職員にとって、代執行の終了は解決ではなく、住人の「生活再建」という新たな困難な始まりを意味していました。家を綺麗にすることはできても、その人の心に染み付いた孤独や絶望を取り除くことは容易ではありません。行政執行という名の強制的な介入は、職員の心にも深い消えない傷を残します。それでも、誰かがやらなければならない仕事として、彼らは今日も現場に立ち、ゴミと孤独の山に向き合い続けているのです。
代執行の日に立ち会ったある役所職員の回想